*マスターリース契約=賃貸事業受託者・一定の利益を得るための企業との契約
*サブリース契約=日々生活をおこなっている住民との契約
サブリース(マスターリース)の解約については、サブリース新法の規制対象とはなっていない
- 個人オーナーのサブリース(マスターリース)契約が解約できない
- 「借地借家法」で縛られているサブリース(マスターリース)契約
「この度、息子の就職に伴い、空室で職場にも近いのでこの部屋に住ませることにしました。
タイミングよくサブリースの契約(3年契約)も切れるということで、管理会社にサブリース契約を解除してほしいと通知したところ、「正当な事由がないと解除できない」との回答でした……」
このような問題が多発しています。
2020年6月、サブリース事業者を対象とするはじめての規制「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(サブリース新法)」が公布されましたが、サブリース(マスターリース)の解約については、サブリース新法の規制対象とはなっていません。
サブリースというとサブリース会社が借り上げて、家賃保証をするというイメージですが、
厳密にいうと、物件オーナーからサブリース会社が借りることを「マスターリース」、サブリース会社が借り上げた物件を賃借人に貸し出す、間借りする(させる)ことを「サブリース」といいます。
こうした一連の賃貸形式を総称して「サブリース」といっています。
さて、住宅や土地の賃貸について定めた法律である「借地借家法」では、「期間の定めのある契約」について貸主側から契約を終了させるには、以下のように定めがあります。
1)期間満了の1年前から6か月前までに更新拒絶の通知を出すこと
2)借地借家法の定める正当事由(借地借家法第28条)があること
借地借家法はこれらの点に反する借主に不利な特約は法律上無効だとしています。
もちろん、借主が快く合意してくれれば別ですが、そうでない限り自己使用の必要性や、立ち退き料の提供など、いわゆる 契約終了するには「正当事由」 が必要になります。
借地借家法第28条は,建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件になるとする「正当事由」の概要は、以下のようなものです。
1)賃貸人の建物使用を必要とする事情
2)賃借人の建物使用を必要とする事情
3)従前の経過
4)建物の利用状況
5)建物の現況
6)立退料の申出
借地借家法と消費者契約法の類推適用
何かとトラブルの多いサブリースですが、問題が起こる根底にあるのが、不動産サブリースに関する契約が「消費者契約」(消費者契約法2条3項)といえるかという点があります。
そもそも物件のオーナーは、反復継続的に賃料収入という一定の利益を得るために契約の当事者となるため、個人であっても「事業としてまたは事業のために契約の当事者となる場合」とされるおそれがあります。
しかし、「事業」の目的は、営利・非営利を問うものではありません。
日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編「コンメンタール消費者契約法(第2版)」(商事法務、2010年)では、事業について「それを行っているものが当該契約について情報の質、量および交渉力に相手方当事者より高いレベルにあると判断される場合であり、一応の定義をしたとしても各契約の実態に合わせて柔軟に解釈すべきである」としています。
つまり、賃貸人(オーナー)が、何棟もの賃貸物件を所有し、賃貸業を営んでいるような場合であえばともかく、初めて賃貸物件の建築契約等(サブリース契約含む)を行うなどの場合については、賃貸人(オーナー)の属性や、勧誘の状況にもよっては、消費者契約法の適用が十分検討できるものと思われます。
消費者契約法の第1条の目的において、次のように定められています。
「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」
また、消費者契約法3条は次のようにあります。
「消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質に応じ、個々の消費者の知識及び経験を考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供すること。
2 消費者は、消費者契約を締結するに際しては、事業者から提供された情報を活用し、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解するよう努めるものとする」
つまり、個人オーナー(区分所有)に対するサブリース解約条項の説明不徹底問題は消費者契約法2条3項に抵触すると考えられます。
「借地借家法」と契約の自由
以上のように借地借家法や消費者契約法では定められていますが、民法の起草者は賃貸借を「契約」として、賃貸借契約によって生ずる賃借権を「債権」として構成しました。しかし、これによって二つの問題が立法直後から表面化しました。
一つは、「契約自由の原則」との関係です。
民法の原則である契約自由の原則によれば、当事者は賃貸借契約の内容(条件)を自由に決めることができるはずです。しかし、この原則を不動産賃貸借にそのまま適用すると、
経済的に優位な立場にある賃貸人が自己に有利な条件で契約を締結することを賃借人に強要し、貸してもらうという不利な立場にある賃借人は、それをのまざるをえないような状態でなされた契約でも有効なものとなってしまいます。
例えば、「賃貸人が明渡しを請求した時は、借家人は、即時に建物を明け渡さなければならない」という条項さえも有効なので、借家人は賃貸人からの明け渡し請求に怯えながら借家で暮らさなければなりません。
このように不動産賃貸借における契約自由の原則は賃貸人だけの自由であり、賃借人には契約の自由はないといっても過言ではありません。
そこで賃貸人と賃借人との関係の差を埋めるために、国家が賃貸借契約の内容に強制的に介入する必要がでてきています。
そこで、民法上こうした劣悪な地位にある不動産賃借人を保護する目的でいくつかの特別法が制定されました。
まず、明治42年に「建物保護法」が制定され、ついで大正10年に「借地法」「借家法」が制定され、その後、昭和16年の改正をはじめとして、たびたび改正されましたが、平成3年に形式も内容も抜本的に改正された「借地借家法」が制定されました。
なお、民法と借地借家法は一般法と特別法との関係に立っているので、「特別法は一般法に優先する」との原則により、不動産賃貸借については、まず特別法である借地借家法が優先的に適用され、借地借家法に規定されていない事項についてのみ民法が適用されます。
サブリース会社は法律で守られる弱者なのか?
とはいえ、サブリース(マスターリース)契約では、果たして賃貸人と賃借人(サブリース会社)との間に賃貸人の経済的な優位性があるでしょうか。
この問題を解決するには、マスターリースとサブリースは分けて考える必要があります。
つまり、マスターリースでは、賃借人はほとんどが上場企業であり、果たして借地借家法で保護すべき劣悪な地位と言えるのかということです。
一方、中には法人という場合もありますが、多くの場合、区分所有の賃貸人はほぼ個人であり、賃借人であるサブリース会社に比べて弱い立場になります。
サブリース会社が契約解除に応じない理由
では、なぜ業者は解約に応じないのでしょうか。
サブリース(マスターリース)の解約に抵抗する業者が出現した裏には、マンションの売買の増加によって管理物件が奪い合いとなっているという背景があるからです。言い換えれば、業者が一定の利益を確保するため解約に応じないわけで、借地借家法の立法趣旨である「生活者保護」とは合っていないのです。
つまり、これらのサブリース会社は賃貸事業受託者であって、本来の借地借家法で保護される対象ではないと考えられます。サブリース(マスターリース)契約は純然たる商取引であって、一定の利益を得るための業者です。ここは区別されるべきです。
何度も指摘しますが、借地借家法の趣旨は劣悪な地位にある不動産賃借人の生活を保護する目的として立法されているのです。むしろ、保護されるべきは、あくまで転貸借人として、その部屋で日々生活を営む入居者なのです。
判例から ⑴−消費者契約法による取消し− 買主は、売主業者の不利益事実の故意の不告知により、「誤認」 して契約したものであるとして契約の取消しを認めた事例→詳細